フランス発の痴漢問題を描いた小説が日本に上陸

少女時代、満員電車でほぼ毎日のように痴漢の被害を受けていた佐々木くみさん。数年前、彼女の実体験を基にした小説がフランスで出版されました。邦訳が待たれた本書がいよいよ日本で今週(12月15日)刊行されます。Voice Up Japanは、パリ在住の著者にインタビューを行ないました。

Kumi Sasaki

1)痴漢を題材にした理由を教えてもらえますか?
 
私のような思いをする子供たちをこれ以上増やしたくなかったからです。私が約20年前に痴漢の被害に遭っていたころから今も変わらず「チカン」はよく聞く言葉なのに、深刻に捉えられていないと感じていました。中高生の6年間、私が毎日のように受けていた被害は、通学の満員電車で下着の中まで手を入れられるような悪質なもので、どう考えても軽いものではなく、深刻な社会問題なのです。私はフランスに留学して以来、もう10年以上こちらで暮らしていますが、数年前に同じような痴漢被害が東京で今でも起こり続けていることを知りました。被害者が声を上げてどうにかしないと、この日常的な性暴力はなくならないと危機感を覚えました。私は今でも痴漢のトラウマに苦しめられています。当時は痴漢のせいで人生をやめたいと思うほどつらかったし、住む国も環境もまったく違う今ですら、嫌な思いが拭えないでいます。
 
2)最初の出版がフランス語なのはなぜですか?
 
フランスに留学した最初のころ、知り合ったフランス人女性と日本社会について話していたとき、ふと思い出して痴漢被害の話をしてみたんです。そしたら彼女は「日本は規律正しく、とても安全な国だと思い込んでいたのに、中高生が日常生活でそんな目に遭うなんて!」とすごく驚いてショックを受けていました。その反応を見て「ああ、やっぱり私が受けていた被害は異常なんだな」と私も再確認することができたのを覚えています。よく外国に行くことで、自国の文化を客観的に見れるようになると聞きますが、まさにそのとおりでした。もともと友人だった共著者のエマニュエルに同じ話をしたときも、東京に住んでいたこともある彼が「自分もよく乗っていた電車の中で、そんなことが起きていたなんて全然知らなかった、なんて恐ろしいことが起きているんだ!」と、とても驚いていました。まずは「チカン」という言葉に先入観がなく、純粋に事実を直視し、問題の深刻さを理解してくれるフランスで出版ようと決めました。私は日本では、当時はいわゆる二次被害を受け、痴漢の話をすることでさらに嫌な思いをすることも多かったのです。日本で今出版しても、また同じように嫌な目に遭うんじゃないか、誰も真剣に読んでくれないんじゃないか、ひいては出版社も痴漢被害について出版したがらないんじゃないか、という危惧もありました。もうひとつは、フランスはペドフィリア(小児性愛)に大変厳しい国です。私がフランスの知人などに話をしたとき、彼らは「あなたが初めて被害に遭った12歳という年齢は、ペドフィリアの罪にも当てはまる」と二重にショックを受けていました。日本では、小学生が被害に遭おうが成人が遭おうが、「チカン」のひと言で済ませる印象があります。私自身そのような見方をしていなかったので、まさに眼からウロコでした。フランスでは被害者が13歳未満の場合、性暴力に加えてペドフィリアという重大な罪で二重に罰せるわけです。その点からしても、フランスではさらに深刻に受け止められました。
 
3)日本の読者へメッセージはありますか?
 
誰もが、実際の痴漢被害を知る必要があると思います。痴漢は一般的にイメージするよりずっと悪質なものが多いのです。でも、加害者が具体的にどういった手口を使うのか知らなければ、痴漢という響きや先入観だけで、実態を掴めません。被害を軽く捉えられ、当事者は実際の被害を周囲に伝えることがとても困難になる。例えば、駅で急に知らない小学生があなたのところに駆け寄ってきて、「今チカンに遭いました!」と言ってきたとします。「下着の中まで手を入れて、性器まで触る痴漢もいる」、「公衆トイレに連れ込む痴漢もいる」といった知識さえあれば、対応の幅も違ってくるでしょう。学校に通う子供が性暴力の被害に日常的に遭う状況は異常です。特に被害者は13歳未満の児童も多いのです。とても被害者だけが声を上げて解決できる問題ではなく、社会全体が責任をもって対応しなくてはならない問題です。
 
4)痴漢の性被害は以前と比べ増えているとお考えですか?パリ在住ということでお聞きしますが、フランスでも同様な問題はありますか?
 
私はもう10年以上日本に住んでいないので、増えているのか、あるいは減っているのかは専門家の方たちの意見に任せたいと思います。ただし「痴漢防止バッジ」の取り組みなども目にしますので、痴漢問題は相変わらず続いているのではないでしょうか。フランス語版の読者たちからは「フランスにも痴漢はいる」と聞いています。「後ろからお尻の辺りを触られた」(男性被害者)という例もありますが、全般的には日本の痴漢よりもオープンな気もします。例えば、私がまだ学生だったころ、パリのメトロの4人掛けで向かい合う席の窓際に座っていたところ、少し不良のような20歳前後の男性3人が乗ってきて、空いた3つの席に座りました。大きな声で冗談を言い合ったり、足を投げ出したり、周りに迷惑だなと不快に思っていました。すると、彼らが降りる際に私の隣に座っていたひとりが「またね」と言いながら、片手で私の胸を一瞬ギュッと鷲掴みにして笑いながら降りて行ったのです。予想だにしなかったので、とっさに何の反応もできなかったのですが、周囲に見えるところでの堂々としたわいせつは日本では経験したことがなく、ただただ驚きでした。すごく悔しかったのは、怒りを表すため、せめて男の手を振り払ってでも乱暴に叩き返すべきだったことです。何より、人権を踏みにじられたかのような過去の屈辱的な気持ちが久しぶりに蘇り、その後しばらく続きました。他にも、路上で見知らぬ初老の男性から「愛人にならないか」と真顔で声をかけられたりもしました。日本では痴漢や性暴力は、隠れて行われる印象が強いですが、フランスでは周囲の人にも分かるような状況も比較的多いと思われます。
 
5)日本の痴漢問題の解決策はなんでしょう?
 
やはり、社会全体が痴漢を深刻な社会問題として捉え、公共交通機関を利用する人すべてが責任をもって痴漢撲滅に尽力する必要があります。特に東京など人の多いところでは、面倒に巻き込まれたくない、また時間的にも精神的にも余裕がないなどの理由から、周囲で何かトラブルが起こっていても見て見ぬふりをしてやり過ごし、できるだけ早くその場から離れようとする人が多いと感じます。繰り返しになりますが、痴漢の被害者は子供も多いです。現代の日本社会では、公共の場で毎日子供が性暴力の被害に遭っているのが現実です。それも多くの大人が一緒にいる場所でです。悲しく、恥ずべきことではないでしょうか。この事実を皆が認識し、互いに協力して子供を守る、被害者を守っていく、という強い意識が必要だと思われます。
 
著者:佐々木くみ/エマニュエル・アルノー
編集協力:小川たまか/解説:斉藤章佳

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