リプロダクティブ・ライツと日本の人工妊娠中絶

日本では中絶方法の選択肢を増やすため、海外から33年遅れて人工妊娠中絶薬を承認申請する動きが出てきた。しかし、それは本当にセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ(性と生殖に関する健康の権利)を実現することになるだろうか?日本における中絶は、世界保健機関(WHO)のガイドラインを満たす「安全な中絶」と言えるのか?「Safe Abortion (セーフアボーション) Japan Project」代表の産婦人科医・遠見才希子さんにインタビューし、その現実を探り出した。  

経口中絶薬が世に出てから33年が経過した今年4月、日本で経口中絶薬が年内に承認申請されることが報道された。日本で中絶は事実上合法化されているものの、法律上は様々な制限がある。刑法堕胎罪 第29章第212条によると、「妊娠中の女子が薬物を用い、又はその他の方法により、堕胎したときは、一年以下の懲役に処する」とされ、母体保護法によって条件を満たした場合は、違法性が阻却される。母性保護法 第3章第14条では、「本人及び配偶者の同意を得て人工妊娠中絶を行うことができる」と示されており、女性の自己決定が制限されているといえる。さらに、日本の中絶は保険適用がなく、妊娠初期の場合で10万円から20万円と、遠見才希子さんによれば、世界で最も高額な費用の一つに数えられるという。

「子宮のなかで胎児の心拍が止まって流産した場合、中絶と同じ手術を受けることがあります。流産の場合は、保険適用で自己負担は2万円ぐらいです。中絶の場合は、保険適用がなく、10万円から20万円かかります」

はたして日本は「セーフアボーション(安全な中絶)」の国なのか? 

世界保健機関(WHO)は、安全な中絶方法として、薬剤による中絶(いわゆる経口中絶薬)、または真空吸引法を推奨している。(吸引法には、外来でのシンプルな処置が可能な手動による真空吸引がある。)また、安全な中絶へのアクセスを阻む要因として、制限的な法律、高額な費用、スティグマ(不名誉な烙印)などを挙げている。

WHOの安全な中絶のガイドラインでは、鋭利な器具を使う搔爬(そうは)法は時代遅れで行うべきではなく、真空吸引法に変更すべきだと明記されている。しかし、日本ではいまだに搔爬法を行っている医療機関がある。

「海外だと1970年代から使われている手動真空吸引キットは、日本では2015年に導入されました。ただなかなか普及してなくて、まだ子宮の中に金属の器具をいれて掻き出す掻爬法を行っている医療機関があります。日本の掻爬法は、合併症が少なくて安全だという医師の意見がありますが、WHOから行うべきでないと勧告される手術を受けることは、女性の身体的健康だけでなく、精神的健康にとっても影響すると思います。やはり日本にも、経口中絶薬という選択肢は必要です」と遠見さんは主張する。

経口中絶薬が日本で認められるように

経口中絶薬は、WHOによると、「安全で効果的に受け入れ可能な」中絶治療へのアクセスを確立する上で、極めて重要な役割を果たすと考えられている。WHOは、妊娠12週目までは医療従事者が直接管理しなくても、自宅で中絶ピルを使用することができるとしており、これは自己評価と自己管理のエンパワーメントにもつながるとしている。

「日本では年内に経口中絶薬の承認申請が行われる見込みなので、あと1年か2年経てば、経口中絶薬が認可され使用できるようになる可能性があります。しかし、どんなアクセスになるかが問題です。日本では、中絶薬を飲んでから子宮内容物が排出されるまで、医師が管理を行う治験が進んでいます。なので、基本的には入院での管理になる可能性があります。さらに、時間内に排出されなかったら手術するという流れになるかもしれません。海外だと一回飲んで排出できなかったらまた飲み直しとか、効果が出るまで1〜2週間待つことがあります。やはり国際的なスタンダードな運用で、希望した人が安全にアクセスできるようにしないといけないと思います」と遠見さんは説明する。

また、WHOが提案しているのは、正確でわかりやすい情報全てを女性に提供することだ。

「中絶薬を認めたら、出血して病院に駆け込む女性が増えて、産婦人科医の負担が増えるという意見もあります。その女性に対して『この薬はこういう薬で、これも起こるかもしれないから、こういった時は受診してください。こういう時は様子をみていいですよ』と適切な説明をすることや『We Trust Women』の視点をもつことが大切ではないでしょうか」と遠見さんは指摘する。

WHOによると、経口中絶薬の平均価格は、4〜12ドルだ。WHOは、経口中絶薬を、誰もが手軽に手に入れられる金額であるべき「必須医薬品」に指定している。

「残念ながら日本では中絶薬が、『病院経営の観点から中絶手術と同等の価格になる可能性がある』という大学教授の産婦人科医の発言が新聞で報道されました」

遠見さんは、そこに「リプロダクティブ・ライツという視点が欠如している」と主張する。

「病院経営の観点から中絶薬を高くするというのは、権利を蔑ろにする発言だと思います」と遠見さんは客観的に語る。さらに彼女は、「中絶薬のために二種類の薬を使いますが、一種類の薬は、日本では胃潰瘍治療薬として認可されており、金額は一錠33円です」と念を押した。  

中絶に関する法律:レイプ犯の同意は不要だが… 

母体保護法では、中絶する場合、配偶者の「同意」が原則必要である。厚生労働省は今年、DV(ドメスティック・バイオレンス)の場合は配偶者の同意は不要であると通知した。また、レイプによって妊娠した場合、加害者の同意は必要ない。しかし、女性が未婚であっても、レイプ被害であっても、医師から男性の同意を求められるケースがまだ存在するようだ。

「配偶者の同意がいること自体ももちろん問題ではあるけれど、さらに問題なのは、配偶者というのを拡大解釈して、どんなケースであっても相手の男性の同意を求める医師がいることです。未婚の場合や事実婚でない場合は、彼氏や性的パートナーは配偶者ではないので法律上、同意は不要です。もちろんレイプ加害者の同意も不要です。厚労省から通達が出ましたが、まだまだ現場は完全に変わっていないと思います。最近でも、レイプ加害者の同意が必要と医師にいわれて困っているというケースの相談がありました」

しかし、なぜ医師は法律でも要求されていない同意を求めるのだろうか?

「法律に関わらない不要な同意を医師が求めていることは、本当に問題だと思います。医師側からの意見では、『もし訴えられたらどうするのか?』と言われています。国際産婦人科連合は、『私たち産婦人科医の役割と倫理的義務は、性と生殖に関するヘルスケアが科学的根拠に基づいて、権利の枠組みの中で提供されていることを確認することだ』と声明を出しています。日本の産婦人科医も常に、リプロダクティブライツの視点をもたなければなりません。女性には、子どもを産むか産まないかを決める、自分の体のことを自分で決める権利があります」と遠見さんは答えている。

「日本は世界で最も高額な中絶を行っているのかもしれない」

ではなぜ日本の中絶費用は世界で最も高額と言われるのだろうか?

「中絶は自由診療で医療機関ごとに価格を決めていい自由なものだから、こうしなさいという規制はできないものです。妊娠初期の中絶手術は約10万から20万です」と遠見さんは語る。

「緊急避妊薬も海外ではすごく安いのに、日本では2011年に認可される時に、開発期間と医師の意見を考慮したとして、金額が高く設定されたといわれています。悪用されないようにハードルをあげるという考え方もあるようです。日本の中絶は非常に高額なので、罰金のような印象を持たれざるをえないと思っています」

しかし、もし自由に料金が決められるのならば、私たち自身も「もっと安くしてくれ」と要求できるのではないか?

「安全な中絶へのアクセスは女性の権利であり、安全な中絶へのアクセスを阻む要因には高額な費用があります。WHOは、『中絶は女性や医療従事者を差別やスティグマから保護するために、公共サービスまたは公的資金を受けた非営利サービスとして、保健医療システムに組み込まなければならない』と提言しています。今後、経口中絶薬の導入で、日本の高額すぎる中絶がどのように変化していくのか、みなさんの社会の目で注視していただければと思います。日本のおかしな現状が変わらない可能性があるならば、声をあげていく必要があると思っています」

より詳しい情報は、「Safe Abortion Japan Project」のホームページにてご覧ください:https://safeabortion.jp/

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日本における共同親権をめぐる議論

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私たちVoice Up Japanとして、日本における共同親権について、その現状を理解したい、なぜタブーなのかを知りたい、様々に論争が繰り広げられる本題に関して建設的な議論を構築したく執筆しました。ご意見などございましたら、ぜひ下のコメント欄にお書きください。