テキストマイニング分析から見るトランス排除社会運動の台頭―「トランス女性」という単語を含むTwitter記事を題材に―

田村貴紀 博士(文学) 一般社団法人Voice Up Japan 研究員    

  1. はじめに

このエッセイの目的は、「トランス女性」に関するTwitter投稿を数量的に分析することで、2018年12月に日本のTwitter上でトランス排除社会運動の台頭があったことを示し、それがなかったかのように論じる歴史修正主義に対抗することです。

2018年12月にTwitter上で顕著になったトランス排除運動は、多くの人々を苦しめる差別であり(尾崎, 2019) ①、(ゆな, 2020)、差別はこの社会全体の敵です②。これについては、(Hori, 2020; アジア女性資料センター, 2019; 三橋, 2019; 藤高, 2019)など、ジェンダー論の観点からすでに様々な論考が発表されています。

ジェンダー論的な問題はそれらの論考に任せて、このエッセイではテキストマイニングを使ってTwitter投稿の内容分析を行いたいと考えます。データ自体はTwitterですでに公開したものと同じですが、再分析し解釈を追加しました。

この分析を行う理由は、言うまでもなくこれがTwitterを舞台とする言論として始まったからです。したがって、Twitter上のトランスフォビア運動の分析にはTwitterのテキストそれ自体の理解が必要ですが、Twitterをすべての人が利用しているわけではないし、利用していても膨大なテキストの全容を主観を超えて共有することは難しいことです。

そこで、Twitter投稿の数量的分析をすることで、例えば、(Hori, 2020)で言及される「女湯」「女子トイレ」に議論が集中しているという指摘が、具体的にはどのような状況なのか、参考になれば良いと願っています。データの整理をするので、普段からTwitterを読んだ上でこれまでも様々な論考や論文を読んだ方にとっては発見がないかもしれませんが、「ああ、そうだよね」と思っていだたければ幸いです。当たり前のことを詳しく説明したいと思います。

再分析のもう一つの動機は、千田有紀の論考にあります。千田は、次のように述べています。

私が今までに会ったのトランス排除的だといわれるひとたちの中には、トランスに対する差別意識をもっているひとは皆無に近かった。(千田, 2020)

まず前提として、「差別意識をもっているひとは皆無」という表現は(高 & 雨宮, 2013, p. 68) ③の紹介する「現代的差別者」の常套句なので、聞き取りの内容を共有できるように示さないで使うことには問題があります。「現代的差別者」は差別を自覚しにくく、時には自分を被害者だと考えているので、「差別する気はなかった」「これは差別ではない、被害はこちらにある」という文言は、差別への抗議を無力化するときによく使います。

次に、もし内容が示されたとしても、問題は、前述のように発言でありテキストにあります。発言の意味は、発言者の意識や意図によってのみ決定されるのではないでしょう。それは近年哲学的に論じられており(三木, 2019)、「そういうつもりではなかった」というやりとりが頻発する私たちの生活実感にも則しています。発言の意味は、話し手と聞き手の間で相互的に決められていくものだと思います。そして前述のように「そのつもりはなかった」という弁明は、発言者がその意図を超えて生じてしまった意味を理解するからこそ、それを否定するためにしばしば使われます。

3番目に、言葉は事実や意見を叙述するだけでなく、他人の身体に直接働きかけることがしばしばあるものなので、その点でも語り手の意識だけは評価できないものです④(オースティン,J.L, 2019; Matsuda, 1993, p. 49,62; 梶原, 2007, pp. 58–63; 鈴木, 2014, pp. 213–214) 。 友人にお金を借りて「期日までには絶対返す」と約束して、「単に文章を読み上げただけで、実はその気はない」と言ったら、穏やかには済まないでしょう。言葉の宛先で生きている人々は、石ころや、(郭, 2014) ⑤が論じるように記号ではありません。

これとは別に、Twitter投稿を分析しようと思ったのは、千田論考冒頭の「ターフ戦争」という表現と、「私が知る限りの」という記述の間の、数量理解のちぐはぐさが問題だ、と私は考えるからです。「戦争」という言葉でたとえられるほどの大量のTwitter投稿が、「私が知る限りの」観察で理解できるとは考えにくいです。なにか問題を小さくしているように思います。「差別意識」の問題も含め、(千田, 2020)の主張は、歴史修正主義であると思います

そうはいっても、「実際たくさんあるよね」というだけでは、Twitterを読んでいない人には実態が伝わりにくいです。そこで、以前に収集した「トランス女性」という単語を含むTwitter記事の統計を再度分析しようと思います。それによって、Twitter上にトランス排除社会運動の台頭があったことを示します。それを示すことによって、 (千田, 2020)に見られる歴史修正主義に対抗したいと思います。

2. 対象と対象の概要

小括

  • 2018年12月にTweet数が急増し、Tweetしたアカウントの数も増えた。
  • 仮説(1) :2018年12月20日頃に、トランスフォビア言論とそれへの対抗言論が増大化し社会運動化した。

2018年12月を転機にTwitter上で「トランス女性」を含むような投稿が多数なされました。そこで2018年3月から2019年1月までのTwitter投稿のうち、「トランス女性」を含むものを収集しました。収集対象は、各月の1日から10日までの投稿です。2018年12月に関しては2回収集しました。

それを2つのグループに分けました。2018年3月から11月までの1,728 Tweet(以下便宜上<11月まで>と表記)と2018年12月から2019年1月までの8,360 Tweetです(以下同様に<12月から>と表記)。

表1によると、2018年12月にTweet数とTweetしたアカウント数が急増しました。明らかに大きな変化がありました。

The total number of posts in [November] was 1,728  in 90 days, but in [December], there were 8,360 tweets in 30 days. The average number of Tweets per day in the term had increased from 19.2 to 278.7. It became 491.3 in January 2019. Accordingly, “the number of unduplicated accounts ”⑥ increased.

アカウントごとのTweet数はTweet全体の増加率ほどには増えていません。少数のアカウントが大量にTweetするようになったのではなく、参加するアカウント数が増大したことがわかります。したがって2018年12月20日頃に、大きな展開点があったことがわかります。2019年1月に至っては、10日間で1,112アカウントが参加し、4,913 Tweetしています。

上記の量は、「私が知る限りの」という観察では全体を理解しえない数量です。この段階で、トランスフォビア言論とそれへの対抗言論が増大化し社会運動化したのではないかという仮説(1)が定立可能でしょう。

表 1 「トランス女性」を含むTweet数の変化 2018年3月から2019年1月

3. Methods

前節で立てた仮説(1)を検証するために、テキストマイニングによる「内容分析」を行います。

テキストをどのように解釈すべきなのかという問いをめぐって、これまで様々な方法が考案されました(フリック, 2002)。もちろん通常通り目で読んで要約するという方法もあります。その他に、文章をいくつかのカテゴリーに分類して、そのカテゴリーの量などを比較すると言う方法もあります。「内容分析」と呼ばれます。

内容分析は、「メディア・メッセージを統計調査にもとづいて科学的に研究するために用いる技法」です(日吉, 2004:5)。伝統的には、分析者(コーダー)の判断に基づいてコンテンツに数値を割り当てたりカテゴリに分類するといった作業(コーディング)を行う分析です(千葉, 2019:30)。 テキストマイニングは、この作業にコンピューターを使います。テキストマイニングは、文章を単語に分解して 、単語の出現頻度や、同時に出現する単語(共起)が何であるかを調べて、それをもとに文章を分析する方法です。

テキストマイニングは、様々な目的で使われますが、社会科学的な分野では文章の全体を要約することに使われることが多いです。

単語を調べることで要約ができるのか?という疑問があるかもしれません。私もそう思います。そもそも、一般的に要約は、元の文章を解釈して新しい別の文章を作ることです。実はそれはなかなか難しく、なぜそのように要約したのか説明するのも難しいです。そこで前述のように様々な方法が試行錯誤されました。

単語は文章全体ではありませんが、単語に注目するのはそれが文章が始まる前から書き手と読み手の間に共有されていて、文章が読み終えられたあと、再び新しく共有されるものの一つだからです。そして文章はこの共有なしには読み手に伝わらないからです。テキストマイニングはこの文章解釈の前提部分を探るものです(秋庭 & 川端, 2004, pp. 268–271) 。単語を数えることのもう一つの長所は、要約した過程を他人と共有し、複数の文章を比較できることです。ただ、解釈の方法のひとつなので、コンピューターを使っていても唯一の正解がでてくるわけではありませんし、また目で読んだ要約とはりんごとオレンジのように発想が違うので2つの方法の間に優劣はありません。

テキストマイニング・ツール KH Coder 3b01 ⑨を使用して、分析しました。分析対象を解釈しやすい名詞系列に絞りました。KH Coder によって文章を単語に分解し、頻度や共起の計算をしました。単語へ分解する基準として、KH Coderに備えられた辞書を利用して行いましたが、「トランス女性」などそこに含まれていない複合語等で重要なものは手動で追加しました。

4. 結果

A) 単語の頻度と新しい仮説(2)

小括

  • 第2章の仮説(1):「2018年12月20日頃に、トランスフォビア言論とそれへの対抗言論が増大化し社会運動化した」については、これが支持できる。
  • 「『トランス女性』をめぐるTwitter言論は、2018年12月を境に質的に転換したのではなく、似たようなものが量的に拡大した」という仮説(2)を立てた。

    表 2 単語の出現回数とその単語を含むTweet数

    私は、2018年11月までは、女子大学への入学をめぐっての議論が中心であったのに、その後トイレと女湯をめぐる論争になっていったという認識でいました。しかしこのように単語頻度表で見てみると、確かに<11月まで>では、女子大の話題が多く、<12月から>ではベスト30から消えています。一方で、頻度表を見ると<11月まで>での中にも、<12月から>で問題になったような「トイレ」「加害」「被害」「恐怖」などの単語が既に出現していて、その順位は12月とさして変わりません。

    先行研究(三橋, 2019; 藤高, 2019; 堀, 2019; 小宮, 2020)の示すところによって、これらの「トイレ」「加害」「被害」「恐怖」及び<12月から>の「女湯」は、トランス排除的言論があるかどうかの指標であると考えられます。したがって、12月20日以降関連するTwitter数、アカウント数が増大し、また指標となる単語の増大が見られることから、第2章の仮説(1):「2018年12月20日頃に、トランスフォビア言論とそれへの対抗言論が増大化し社会運動化した」については、これを支持できると言えるでしょう。

    そして、12月を境にTwitter言論が質的に転換したのはなくて、量的に拡大したのではないかと考えられます。そこで、「『トランス女性』をめぐるTwitter言論は、2018年12月を境に質的に転換したのではなく、似たようなものが量的に拡大した」という仮説(2)を立てました。

    B) 単語の頻度・共起関係の可視化

    小括

    •  多次元尺度構成法による分析で、<11月まで><12月から>ともに、トランス排除に関する語群とジェンダー論に関する語群に大別された。これは仮説(2):「『トランス女性』をめぐるTwitter言論は、2018年12月を境に質的に転換したのではなく、似たようなものが量的に拡大した」を支持する。
    • また、2枚の図はトランスフォビア言論とそれへの対抗言論以外に、ジェンダー論的な議論が継続・興隆していたことを示しています。全体を「ターフ戦争」(千田, 2020)と総括する事は、一面的な認識で、現象全体を表現してはいません。

    前述の単語の頻度や共起関係を全体として捉えるために、多次元尺度構成法を使って図にしました。ここでは、2単語の共起率の高さを距離に置き換えて考えます。ひとつのTwitter投稿に同じ2つの単語が何度も共起した場合、2つの単語の距離は近いと考えます。そしてたくさんある単語の距離を相互に計算します。これは地図を作るような方法です。京都・大阪は近く、東京・神奈川も近いです。しかし、東京と大阪は遠く、北海道・九州は、それら全部から遠いです。このような相互関係を図に表すと日本地図になります。 そのようにして言葉の地図を作ります。

    このようにして、Twitterに出てくる単語を図にしました。頻度の高い語は大きな円でかいてあります。円同士が近いのは、一緒に出てくることが多い単語です。多次元尺度構成法と同時にクラスター解析をしています。クラスター分析によってグループに分けられるものは、円の色が同じです。

    図1 <11月まで>の分析について

    図1の中心には「トランス女性」とそれと共起する単語の島があります。解釈の便宜のため、これを[1]として、他の島には[6]⑩までの番号をふってあります 。

    語群[1]は「トランス女性」「差別」「シス」などが並んでいます。語群の[6](「身体」、「恐怖」、「排除」)と [2] (「女湯」、「加害」、「犯罪」、「暴力」、「被害」)は、クラスターが分かれていますが、近接していて関連するような内容であることが伺えます。

    [4](「女子」、「トイレ」、「大学」、「自認」)と[5] (「女子大」、「入学」、「権利」)に関しても同様です。[3]は、フェミニズムとジェンダーに関する理論的な議論のようです。

    図 1 多次元尺度構成法による単語の頻度と共起 <11月まで>

    図2 <12月から>の分析について

    便宜上こちらは、クラスターに[A]から[G]までの記号をふって整理しています。「トランス女性」を中心とする中央の島は[A]は、「差別」、「排除」「シス」などで構成されています。これの左側に[F] [G] [H] [B]のクラスター群があります。「トイレ」や「女風呂」と「犯罪」や「加害」に関するクラスターです。中央の島の右側に[C][D][E]があります。ジェンダー論やフェミニズムに関する理念的な議論だと推測できます。

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    図 2 多次元尺度構成法による単語の頻度と共起 <12月から>

    B-3.共通点と相違

    <11月まで>と<12月から>の2つの図を比較すると、<11月まで>の女子大学に関する[5]が<12月から>にはない、ということがわかります。同時に、残りの[4] [6] [2] と[F] [G] [B]、また[3]と [C] [D] [E]は、似たようなあるいは、関連する単語で構成されている事がわかります。大別すると、<11月まで>では[6][2]のようなトランス排除に関する語群と[3]のようなジェンダー論に関する語群に大別され、<12月から>では、同様な構図が単語の種類と量が増大した形で示されています。

    この結果は、

    • 「『トランス女性』をめぐるTwitter言論は、2018年12月を境に質的に転換したのではなく、似たようなものが量的に拡大した」という仮説(2)を支持します。
    • また、2枚の図はトランスフォビア言論とそれへの対抗言論以外に、ジェンダー論的な議論が継続・興隆していたことを示しています。全体を「ターフ戦争」(千田, 2020)と総括する事は、一面的な認識で、現象全体を表現してはいません。

    C) コーディングルールによる記事分類

    小括

    • 前節で述べた単語の推移を数量の増減で理解するために、コーディングルールによって分類し、その割合の増減を図にした。<11月まで>に比べて<12月から>では、似ている部分もあるが、同様な構図ながら*犯罪カテゴリー*恐怖カテゴリーが、突出して増えた。

    ここでは、これまでの議論を踏まえて、単語を指標として記事分類基準であるコーディングルールを形成し、<11月まで>と<12月から>に対して同一のコーディングルールを適用して比較します。つまり、ものさしを一つ決めて、2つのテキストを測り、比較するという試みです。コーディングルールのための単語は、主に<12月から>のクラスターから採取しました(図 3)。 以下、アスタリスク(*)は、カテゴリー名であることを示します

    The way the coding rule works is that, for example, Tweets containing the words “心mind”, “体body”, or “気持ちfeelings” are tagged as *心と体mind and body. Of course, there are many words in a Tweet, so it is possibe for a tweet to have  multiple tags. *当事者     

    図 3コーディングルール

    前述のコーディングルールに従って、<11月まで>と<12月から>を分類し、各コードの出現割合を計算しました。

    表 3 コーディングルールによる分類結果

    そして、分類できなかったものを除いて、この表をレーダーチャートで表現しました。

    図 4 <11月まで>と<12月から>の各カテゴリーの出現比率による比較

    8項目のうち3項目、*自認*心と体*ジェンダーは似た形状になっています。しかし、<12月から>は<11月まで>と比較して、*犯罪(+14.20%)*恐怖(+5.00%)*女装(+3.94%)の順で増大しています。 つまり2つのデータともに、*女子大以外はある程度同様なカテゴリーで構成されていますが、<11月まで>から<12月から>にかけて記事数が量的に非常に増大し、そして*犯罪(+14.20%)*恐怖(+5.00%)に関しては、突出して増えたということがいえます。

    6結論

    冒頭で述べましたように、このエッセイの目的は「トランス女性」をめぐるTwitter上での議論の数量的側面を明らかにすることでした。分析の結果を繰り返しますが、次のようなことがわかりました。

    単語の頻度からは、仮説(1) :「2018年12月20日頃に、トランスフォビア言論とそれへの対抗言論が増大化し社会運動化した。」を支持する結果が出ました。

    また「『トランス女性」をめぐるTwitter言論は、2018年12月を境に質的に転換したのではなくて、似たようなものが、量的に拡大した』という仮説(2)を立てました。

    単語の頻度・共起関係の可視化からは、次のことがわかりました。 <11月まで><12月から>ともに、トランス排除に関する語群とジェンダー論に関する語群に大別され、同様な構図で単語の種類と量が増大した形になっていることがよりはっきりわかりました。 この結果は、仮説(2)を支持します。また全体を「ターフ戦争」と総括する事は一面的な認識で、現象全体を表現してはいないと思います。

    コーディングルールによる分類からみると、<11月まで>に比べて<12月から>は、似ている部分もありますが、同様な構図ながら*犯罪カテゴリー*恐怖カテゴリーが、突出して増えた事がわかります。これらのカテゴリーは、前述のようにトランス排除的言論があるかどうかの指標単語を含み、トランス排除社会運動の台頭があったことを示します。

    以上のことをまとめると、「トランス女性」をめぐるTwitter上の言論では、2018年12月を境に大きく内容が変化したのではなくて、同様な構図で、単語の種類と数量が増え、参加者も大きく増大した、ということがわかりました。特に2018年12月からのTwitter言論では、*犯罪カテゴリー*恐怖カテゴリーに関する言論が増えて、それが多くの人々を苦しめていったと言えるのではないかと思います。

    たくさんTwitterを読んでいる方には、平凡な結論かもしれません。ただ、「はじめ」にで述べたように、「私が知る限り」という範囲の観察で把握しうる数量ではない、という事は証明できたと思います。そして2018年12月に、日本のTwitter上で、確かにトランス排除運動が台頭したことを示しました。

    私は、単に数字を書いたに過ぎませんが、「実はトランス排除なんかないのだ」という、(千田, 2020)のような歴史修正主義に抗するために、少しは役に立てたのではないかと思います。

    311以後の社会運動に自らの身体を投げ入れてそれを考察した、田村あずみは次のように書いています。

    3·11後の路上には、自分たちが不完全で忘れっぽい存在であることを認めた上で、それでもなお倫理的な行動を模索する試みがありました。その倫理は非常にシンプルなものです。それは、自分に思い出すように強いる他者に『開いている』ことです。(田村, 2020, p. 137)。

    私もまた、不完全で忘れっぽい存在なのですが、「他者に開いている」ための手がかりを、自分のために残したいと思いました。

    謝辞

    掲載を許してくれた編集長のJohann Fleuriさん(Voice Up Japan理事)と、英文校閲と適切な指摘をしてくれたMai Miuraさん (Voice Up Japan翻訳部)に感謝します。とはいえ英文の品質の貧弱さは、全て私に責任があります。

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    ①.体験を共有しない他者を、理解することはとても困難です。その場合、是正すべき社会的事態に対して、社会的公正という観点で参与することがしばしば選ばれます。差別の排除、権利の平等は普遍的なものだからです。同時に、理解できなくてもすでに同じ社会を生きています。なので、理解できないかもしれないけれど、感じることはできるかもしれないと思います。フランクが『傷ついた物語の語り手』で述べたように、物語には、他者の傷をいやす力 (フランク, 2002, p. 4)や他者の情動を動かし歩き出させる力(田村, 2020:134)があると思います。

    ②.差別とは、「エスニシティにかぎらず宗教ジェンダーやセクシュアリティ心身の障害など何らかの差異を共有するとみなされる集団アイデンティティ集団ごとに社会的資源が偏って分配されていること」であり、「そうした偏りは自由と平等を基調とする近代市民社会の理念に反するためしばしば差別問題として是正の要求を喚起することになる」(盛山ほか, 2017)ものです。

    私達の社会は、近代市民社会の理念の上に成り立っています。したがって、近代市民社会の理念に反する差別は、近代市民社会そのものを否定し壊すものです。すなわち、社会全体の敵です。

    ③.高史明の紹介するMcConahayの議論は次のようです。

    McConahayは、アメリカにおける黒人に対するレイシズムは、20世紀半ばに変容を遂げたといいいいます。彼の分類によれば、かつて主流であった偏見は古典的レイシズムと呼ばれます。これは、黒人は劣っているという信念に基づく公然とした偏見です。 しかし差別は悪いという考えが広がると、現代的レイシズムと名づけられたものが登場します

    現代的レイシズムの持ち主は往々にして、人種間の平等を認めていますが、しかし、 (1) 偏見・差別はすでに存在しておらず、 (2) 現に存在する経済的格差は不平等によるものではなく黒人の努力の欠如によるものであり、(3) 黒人は政府による優遇を過剰に求め、 (4) 不当な経済的恩恵を受けている、

    と考えているとMcConahayはいいます。現代的レイシズムは古典的レイシズムよりも微妙な形の偏見ですが、差別的行動に結びついています。しかし、現代的レイシズムは、それを抱いている本人にとっても偏見であると自覚しにくいのです。

    そして、このような考えになれば差別する側が「こちらが被害者だ」と思うようになるでしょう。ここに挙げられている事例は米国の人種差別に関するものですが、日本における差別発言にも応用可能だと思います。というより、現代的差別者は、広くこのレトリックを使っていると言ったほうがいいでしょう。

    ヘイトスピーチは単なる言葉であるのに、なぜ人を傷つけるのかという問いに対する議論が米国で行われました。その時の採用された理論のひとつが、言語行為論です。哲学者のオースティンは、言葉の働きは、単に事実を述べたり意見を書いたりする以外に、行為でもあり得ると考えました。典型的なものは「約束」です。約束は単なる言葉の交換ですが、約束することは一つの行為として、約束した人同士に強い影響を与えます。

    ⑤. (郭, 2014) は、ジュディス・バトラーによる「主体化」論に依拠して、在日コリアンへのヘイトスピーチについて、次のように論じている。

    日本という大文字の主体に従属した小文字の主体である日本人として、「正統的な主体であることを示そうとする主体化プロセス/反照的証明の中で、「朝鮮人」という記号への嫌悪が独り歩きしていく」(郭, 2014:50)。この理論をトランス排除に適用するには、別の議論が必要ですが、誰であろうと生きている個人は、他者の主体形成のための記号ではありません。

     ⑥.「重複のないアカウント数」は、ツイートがたくさんあっても、実際にいくつのアカウントがツイートしたのか数えたものです。

    ⑦.形態素解析ですが、本稿では「単語」という理解で差し支えありません。

    ⑧.社会学に本格的なテキストマイニング利用を導入した重要な本です。ここで著者らは、リクール(リクール, 2004)の「3重のミメーシスの循環」を応用して、体験談における単語の意味を説明しました。 そしてテキストマイニングで発見される重要な単語群は、3重のミメーシスにおけるミメーシスⅠ(先形象化préfiguration)であると位置づけました。これによって著者らは、新宗教信者のライフヒストリーをテキストマイニングを使って分析し、信仰の熟達度に従って、発言の中に出てくる教団用語が増え深くなっていくこと(ミメーシスⅢ 再形象化 refiguration )を論証しました。

    ⑨. https://khcoder.net/ka

    ⑩.図には[ ]記号はありませんが、記述の便宜上つけています。

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