HIVとAIDSの違い:もう、HIVは「死の病」を意味しない

Written by Jun-ichi Ozaki  / Translated to English by Sachi Kikuchi

3月1日はst 国連合同エイズ計画(UNAIDS [*1])により定められた「差別ゼロの日」である。2013年12月1日、オーストラリアのメルボルンで開かれた世界エイズデーの式典で発表されたそうだ。HIV [*2] / AIDS [*3] への理解は広まってきているものの、いまだ差別や偏見が多いのが実態だ。

AIDSによる友人の死

個人的な話から始めると、僕にはAIDSで亡くなったと思われる友人がいる。知ったのは5年ほど前だ。

それは、30年近く前に仲の良かった友人と、偶然会って話をする機会に恵まれた時だった。「久しぶり」とたわいもない会話をする中で、「そういえば」と話題が変わった。 「xxxさんの事、本当に残念ですね」。僕は何の事かわからず尋ねると、共通の友人が亡くなっていたことを知る。「差し支えなければ、どのような亡くなり方をしたのか教えてくれるかな?」と聞くと、その彼はどうやらAIDSで亡くなったらしいという事を知った。

彼と最後に会った時の姿は、ジムで体も鍛えていて、とても健康的な印象だったことから、AIDSで亡くなった事実となかなか結びつかず、困惑をしながらも、彼ともう会うことが出来ないということを、とても寂しく思った。

日本のHIV / AIDS の感染状況

僕は、1980年代には自分がゲイ男性であることをもう自覚していた。 そんな自分は、 HIVとAIDSに関して多少なりとも知識があると思っている。最初はアメリカで起きている「ゲイの間で蔓延している病」と言うニュースからだった。日本では80年代後半から報道された、いわゆる「薬害エイズ事件」の問題を耳にしたことのある人も多いだろう。

厚生労働省エイズ動向委員会によると、2019 年に報告された HIV 感染者は 903 件、 AIDS 患者は 333 件あり、HIV 感染者と AIDS 患者を合わせた新規報告数は 1,236 件あった。HIV 感染者の年間新規報告数は 2008 年、AIDS 患者の年間新規報告数は 2013 年をピークに、ともに減少傾向となっているそうだ。それでも、日本でいまだ年間1,000人以上のHIV / AIDS 新規感染者が報告されている。

HIVは性接触による感染が主な原因だが、2019年の統計によると、男女間で感染するケースは全体の15.5%、また女性の感染は全体の4.9%となっている。言わずもがな、HIVはゲイだけの病気ではない。

HIVとAIDSの違い

現在、医学の進歩により、HIVに感染をすることが必ずしもAIDSを発症し死に至る、という末期の病気ではなくなっていることは、いったいどれだけの人が知っているだろうか?

僕には、HIV感染者でありながらも、継続した治療のおかげで、HIVウィルスを検出限界値未満に抑えることができ、健康に日常生活を送っている友人もいる。しかしながら、HIV検査もせず、HIVウィルスに感染をしていることに気づかないまま、突然AIDSを発症し、亡くなってしまうケースが日本にもまだまだあるのが現状だ。AIDSを発症して、初めてHIVに感染している事を知るのだ。また、コロナ禍において、保健所の無料匿名の検査などが実施できず、検査を受ける機会が減少し「いきなりAIDS」を発症するケースが増加することも懸念されているという。

この現状は、日本でHIVなどの性感染症(STDs [*4])の検査が「簡単に受けることができない」ことが、最も大きな原因ではないだろうか。海外では無料でHIVの検査を受けられる機会が多くあり、簡易検査キットも簡単に入手可能だ。一方、国内では、保健所で匿名かつ無料でHIV検査を受けられるのは、月にせいぜい1、2回だ。また、医療機関で検査しようとすると、具体的な症状がない場合は健康保険の適用外となり費用も高額になる。日本はHIV検査を受けるためのハードルが高い。

HIVとAIDSに対する偏見と差別がいまだ起きている実態

さらに、2019年には、内定が決まった就職先に対し「HIV陽性者である事を告げなかったこと」が原因で内定を取り消された、と裁判になった事例もある。この札幌地裁での裁判では、被告側に慰謝料などの支払いを命じている。HIV感染を理由とした、いかなる差別はあってはならない、と判断された。

この裁判に関する報道の記事のいくつかに「エイズウィルス(HIV)感染を告げなかったことを理由に」とある。複数の報道機関が同じ文言の記事を掲載しているため、日本の通信社がニュースの元になっていると思われるが、「エイズウィルス(HIV)」という表現は疑問に感じる。

そもそもAIDSとは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染した後、免疫機能が低下し、厚生労働省が定めた23の合併症(日和見感染症)のいずれかを発症した場合のみ、AIDSと診断される。すなわち、この病状をエイズ(AIDS)を発症したと言う。この事実から、「エイズウィルス(HIV)」という表現も正されるべきなのではないかと考える。

僕の地域に配られる市の広報誌に「エイズ相談・検査窓口」という案内があった。 AIDSを発症をさせないためには、早期に検査をし、もしHIV感染を確認したら、適切な服薬治療が大切だ。このような案内は非常に重要であるが、その表現に違和感を感じた僕は、市に対して「エイズ相談・検査窓口」ではなく、より正確な「HIV/エイズ相談・検査窓口」が適切ではないか?との提案のメールをした。数日後、「提案の通り次月号から変更をする」という内容の連絡が届いた。行政でさえHIV感染とAIDSの関係性について、正しい認識がなされていないケースだと思ったが、提案後、即答で変更の回答が来たのは評価されるべきであろう。

<変更前>               <変更後>

<Before> AIDS Consultation/Testing, Syphilis Testing / Date: February xxx / Hours: 2:00-3:00pm / For: Those worried about infection (anonymous) / *Depending on the COVID-19 situation, this may be canceled 

<After> HIV/AIDS Consultation/Testing, Syphilis Testing / Date: March xxx / Hours: 2:00-3:00pm / For: Those worried about infection (anonymous) / *Depending on the COVID-19 situation, this may be cancelled


HIV感染者でありながら、投薬治療を続け、陽性発覚前と変わらない日常生活を送っている友人にインタビューした。 

■ 名前:たけし(仮名) 年齢:28歳  性別:シスジェンダー男性 セクシャリティ:ゲイ

VUJ:HIVに感染をしているとわかった原因は何でしたか?

たけし:突然、4年ほど前に40度近い高熱が出ました。インフルエンザの季節だったので、検査をしましたが陰性。原因が特定できずにいました。友人に「最後にHIVの検査をしたのはいつか?」と聞かれ、そういえば随分としていないと思い、先生にお願いをして検査をしてもらい、HIVに感染してるとわかりました。

VUJ:HIV感染後の初期症状で、インフルエンザや風邪に似た症状があると言いますね。

たけし:そうなんです。僕はその時には、そんな知識もなかったので、友人のアドバイスがなければ、HIV検査はしていなかったと思います。

VUJ:感染がわかってから、治療を開始するまでにどのくらいかかりましたか?

たけし:僕の場合は、約3ヶ月かかりましたね。HIV陽性とわかったのは一般の病院だったので、まずは、HIVの治療ができる病院を紹介してもらいました。HIVの治療薬は非常に高額で、障害者の認定を受ける必要があると言われました。そこで2度のHIV陽性の結果を待って、障害者手帳の申請と、自立支援医療費の申請をしました。それらが揃って、初めて、HIVの治療が開始できるようになりました。

VUJ:日本ではまだ、そんなにも時間がかかるんですね。

たけし:これでも早くなった方だと聞きました。免疫の数値が一定値以下まで下がらないと治療ができない場合もあるらしいです。治療が開始できるまでは「こうしている間に、HIVウィルスはどんどん僕の体の中で増殖をしている」と思うと辛かったですね。 

VUJ:欧米では、感染が分かってからの二次感染予防の観点からも、治療を早く行うようになっていると聞きましたが、日本はまだまだ課題が多いと感じますね。HIVウィルスが検出限界値未満になるまで、どのくらいの期間を要しましたか?

たけし:僕の場合は、投薬を開始して3ヶ月目の検査で、検出限界値未満になりました。薬との相性がよかったんでしょうね。長い人だと半年以上かかる場合もあるようです。

VUJ:陽性とわかってから、何か自分の支えになったものとかはありますか?

たけし:最初にHIVの検査を勧めてくれた友人ですね。HIVに感染しても、今ではきちんと薬を飲み続ければ、普通の人と同じように寿命を全うできるくらいに生き続けることができる、と教えてくれたのもその友人でした。あとは、Twitterのアカウントを匿名で作りました。やっぱり最初は不安で、情報収集をしたくて。同じ境遇の人がたくさんいること、ゲイだけでなく様々なセクシャリティの人と、意見交換や、励ましあったり。今では、最近感染がわかったっていう人からフォローをされると、「少しだけ病気では先輩だから、何かアドバイスできることがあれば。少なくとも話を聞くことだけはできるよ。」っていうメッセージを送ったりしてます。

VUJ:HIV陽性であることで、差別や偏見などを受けたことはありますか?

たけし:歯医者に受診を断られちゃいました。検出限界値未満であるとは言ったんですけど、安全に治療をするための設備が整っていないって言われて。結局、HIV治療をしている病院で紹介してもらった歯医者に行ってます。

あとは、会社の年末調整で障害者控除を受けると、障害者手帳を持っていることがわかってしまうと思います。僕の場合はうつ病もあって、心療内科で自立支援医療費の制度を教えてもらって、その申請で精神障害者保健福祉手帳を持っていたから、すでに障害者控除を受けてたんですけど、そっちの手帳は有効期限があるんです。会社から有効期限の確認の連絡があったんですけど「手帳の種類が変わって、有効期限がなくなりました」と、しれっと障害名の部分には触れずにコピーを渡しました。

他には、特にないかなぁ。そもそも、やっぱりHIVに感染していることは、本当に限られた人にしか伝えていないし、知られたらどう思われるか...って不安はありますね。

あ、あとは、生命保険とかかな。当然条件も悪くなるし。もしも家を買うなら、住宅ローンもどうしようかって感じですね。

VUJ:他に何か、読者に伝えたいことはありますか?

たけし:HIVに限らず、STD(性感染症) の検査は定期的に受けよう、って言いたいです。自分のためにも、大切な人のためにも。あとは、正しい知識と、セーファーセックス!やっぱり、感染しない事が何よりですから。

VUJ:男女の場合は、望まない妊娠はピル(低用量ピル:経口避妊薬)で予防できますが、STDはピルでは予防できませんしね。やっぱりコンドームを正しく使うこと、「コンドームを使って欲しい」と言う事、それを「YESと言う」事がとても大切ですよね。

たけし:それからもう一つ。日本ではまだあまり知られていないけど、「U=U [*5](検出限界値未満=HIV感染しない)」ってのも、もっと広く認知がされるといいなと思います。HIVについての偏見や差別をなくすためにも。

VUJ:確かに「U=U」はまだ日本では、ほとんど聞かないですね。「U=U」という言葉も、もっと日本で知ってもらう必要がありますね。社会の差別や偏見を、少しでもなくしていきたいですし、それには社会の正しい理解が必要です。「HIV」と「AIDS」という表現も、正しい意味で、正しく使われるよう、社会の一人ひとりが意識を高めていくことが大切ですよね。今回は、結構プライベートな事にも答えてくれて、本当にありがとうございました。

<Notes>                                                        *1: Joint United Nations Programme on HIV/AIDS                                 *2: Abbreviation for Human Immunodeficiency Virus                               *3: Abbreviation for Acquired Immunodeficiency Syndrome             * 4: STDs = Abbreviation of Sexually Transmitted [Transmissible] Diseases * 5: Undetectable = Abbreviation for Untransmittable, meaning “HIV virus is not detected = does not infect”.

詳細は U=U Japan Projectを。(https://hiv-uujapan.org/).

<Reference Articles>

「差別ゼロの日」に寄せて ~アジア地域赤十字・赤新月HIV/エイズ対策ネットワーク会議に参加して~ 2018年3月1日 日本赤十字社

死の病ではなくなったエイズ 差別・偏見の解消へ「性の多様性受け入れる社会を」 yomi Dr. October 30, 2019

「エイズ=死の病」は終わった。HIV感染でも治療でセックスや出産が可能。それでも偏見・差別根強く、専門家は憂う 2019年10月31日 ハフポスト日本版

令和元(2019)年エイズ発生動向年報(1月1日~12月31日)令和2年9月15日 厚生労働省エイズ動向委員会 Ministry of Health, Labor and Welfare AIDS Trend Committee 

「いきなりエイズ」発症して初めて発覚、感染者の半数に 2020/11/27 読売新聞

「いきなりエイズ」が増加 コロナで検査停止の保健所 民間での受診呼び掛け  May 29, 2020 Okinawa Times + Plus

病院がHIV差別はナンセンス 普通に働き、生活できる時代です June 13, 2019 BuzzFeed

内定取り消しで賠償命令 HIV告知不要、札幌地裁 日本経済新聞 Nihon Keizai Shimbun September 17, 2019

内定取り消しは違法 「HIV告げる必要なし」札幌地裁 東京新聞 September 17, 2019 Tokyo Shimbun

「エイズに感染する」という言い方は? NHK放送文化研究所  2009.07.01 NHK Broadcasting Culture Research Institute

国際人権章典国際連合広報センター

<Homepage of the organization that I referred to>

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