‘Toward Diversity’―ジェンダー・インクルーシブな「東大」へ

By バネルジー トリシット | Translated by 石井萌絵

「東大に入学して最初の秋までに彼氏ができない女性は一生結婚できない、という言い伝えがあります」と岡村梢さん(東大大学院工学研究科 博士課程1年)は言う。岡村さんは学生団体 “Toward Diversity”のリーダーとして、このような偏見から東大の女性研究者らが自由になることができるようサポートをすることに力を注いでいる。

1877年に設立された東京大学は、日本最初かつ最高峰の「帝大」である一方で、長きに渡ってジェンダーギャップの課題を抱えてきた。学部生の女性比率はわずか20%前後、自然科学・工学系の学科では10%にまで下がる。このような状況のもと、"Toward Diversity”は東大の学生団体として研究と議論を重ねると同時に、学外への働きかけも行っている。

Toward Diversity中心メンバーから新入生へのウェルカムメッセージ(2021年春

フランス・イギリス出身の博士課程2年生、マックス・ベルテさんはToward Diversityの活動について、こう語る。 「私たちは2019年に大学からの活動資金を得て研究プロジェクトとして活動を開始しました。2年目には学生サークルとして、研究活動よりもアウトリーチを重点的に行うようになりました」Toward Diversityによる研究は、東大における「Leaky Pipeline」―教授になるまでのキャリアを積み上げる各段階で女性比率が減少していく問題―の原因に注目したものである。日本の国立大学における教員の女性比率は16.7%、工学系では6.2%まで落ちる。さらに、国立大学協会の第15回追跡調査によれば、女性教員の比率を30%に上げるという目標を達成したのは、全国立大学のうちわずか4%である。2011年から2018年の間に女性教員比率の平均は13.0%から16.7%まで向上したものの変化は遅いといえ、また、時間とともに変化が加速しているわけでもない。

数を増やすだけでは足りない

しかし、女子学生や女性教員の数に着目するだけでは問題の解決にはならない。 「大学は奨学金や住まいの支援を中心的な戦略として女性比率を上げようとしていますが、実際に入学した後に研究者になるのはほんの一握りです。大学側が積極的に女子学生を迎え入れる取り組みを進めても、ロールモデルが少ないために、学生としてはどのようにアカデミアの世界で生きていくかを想像するのが難しいんです。」と岡村さんは言う。

国際女性デーに向けてのポスター掲示

今年、Toward Diversityは国際女性デーのイベントを主催した。大学側も定期的にトークイベントなどのイベントを実行しているが、国際女性デーそのものを真に祝う趣旨のものは今までなかったと考えたからだ。東大で活躍している女性や彼女らの功績を特集したビデオを制作することで、視聴者に女性研究者の存在をより強く意識するようになってほしいと考えた。中国出身の博士課程2年生李杨さんはToward Diversityのプロジェクトの一つである “Her UTokyo” について、 「私たちは博士課程の女性たちにインタビューをし、彼女らの物語をインスタグラムでシェアしています。学内にとどまらず、東大コミュニティの外の学生たちにとっても、道しるべとなればと思います」と語った。

必要は発明の母

メンバーたちは皆、Toward Diversityへの参加動機として個人的な経験を挙げる。李さんは、中国の女子学生と日本の女子学生の自信の差に驚きを覚えたことから、その原因を探るとともに、日本の学生が自信を持つ手伝いをしたいと考えた。元リーダーで博士課程2年の川瀧紗英子さんは、日本の自然科学・工学分野における女性の少なさの原因についての研究を先輩から引き継いだが、思わしい結果が出なかったために東大に焦点を当てることにした。 「入学してすぐに、女性の学部生の少なさに居心地の悪さを感じました。友人も少なかったため、女性や同じ問題意識を持つ人たちのためのコミュニティを作りたかったんです。」

塵も積もれば山となる

Toward Diversityのメンバーたちは、差別ははっきりとわかりやすく現れるのではなく、マイクロアグレッションとして目に映るものだと言う。 「直接的な差別は無いにしても、研究室の文化が未だに男性中心的な場合もあります。例えば友人の研究室では、研究についての最も重要な”議論”は居酒屋など、女性があまり行かないことが多い場所で行われています」と岡村さんは強調する。 「私の場合、競争率の高い奨学金に応募して採用されると、女性だから選ばれたんだと言われました。自分の能力を否定された気分になります」と川瀧さんは言う。「研究室を探していた時に、医学科の教授に”女性としての幸せ”か研究者としての人生のどちらかを選ぶことになると言われました。彼自身には3人お子さんがいましたが、男性だからそんなことを考えないで済んだのだろうと思わざるを得ませんでしたね」

若者が積極的に政治の話をしない日本社会で、この団体の活動は過激だと見られることもある。「両親は、私がジェンダーに関する活動をしていることに対していい顔をしません。そんなことよりも研究に集中してほしいという両親の考えも理解できますが、女性の同僚たちはとても協力的です」と川瀧さんは語る。「私の研究室のメンバーはとても柔軟で、ジェンダー関連の活動について話しますし、国際女性デーの動画を研究室内でシェアすることを促してくれました」とベルテさんも言う。「実際、研究室のメンバーたちが変化を起こすのも目にしました。以前は男性の代名詞のみを使っていたところを、現在は”彼”と”彼女”を併せて使っています。ポジティブな変化が始まっています」と付け足した。

日本社会において、「東大」に匹敵するステータスは存在しないといっても過言ではない。最高裁判所判事の半数以上が東大出身者であり、数々の総理大臣や国会議員、ノーベル賞受賞者を輩出してきた大学だ。あらゆる分野を牽引する東大が、ジェンダー平等な環境を実現するのにこれほどまでに時間がかかっている理由は何なのだろうか。「時間がかかっていることそのものが問題の一部です。東大では物事の進め方は決まっていて、今までずっとそれで上手くいっていました。それゆえに、現状維持でよいという感覚が根強いのです」とベルテさんは指摘する。「東京大学男女共同参画室の方にも話を聞きましたが、大学側の努力に見合うような成果は出ていません。もしかしたら、東大は女子高校生にとって魅力的な選択肢ではなかったり、女子が自分の能力を低く見る傾向があるのかもしれません。女性の受験者は全体の20%です。メディアの影響で、東大に対して偏ったイメージを抱く人が多いのも理由の一つかもしれません」

東大内の他のコミュニティでのジェンダー不均衡

留学生にとって、状況は少々異なる。高度な技術分野における女性の割合は、世界でも歴史的に低い。「イギリスにある私の大学では、航空工学分野に女性はいませんでした。大学全体で見ると、女性のほうが男性よりも多かったのですが」とベルテさんは言う。一方、東大の留学生内の男女比率は大幅に良い。「日本人の修士課程の学生の女性比率が23%なのに対し、留学生では45%で、ほぼ倍です。ですから、日本人学生のコミュニティとの交流がなければ不均衡の深刻さには気づかないでしょう」とベルテさんは付け足した。

Toward Diversityは研究者コミュニティーに重点を置いているが、ジェンダー不平等は大学全体に見られる問題だ。2013年の労働契約法改正により5年間の非正規雇用ののちの解雇が可能となった結果、多くの人、特に女性が職を失っている。男性は、家族への責任感といった理由から、非正規雇用の求人に応募したがらない傾向にあるからだ。女子高校生の親でも、特に東大への進学には反対するケースは多い。東大進学者には浪人経験者も少なくないが、女子生徒は、しばしば浪人のリスクを取って東大を目指すよりも、「簡単な」大学を選ぶように圧力をかけられる。

希望の光

しかし、まだ希望はある。2021年4月に学長が変わり、理事会も9人中5人が女性となった。また、Toward Diversityはリサーチに基づく提言リストを学長室に提出した。ゆっくりとではあるが、確実に動きはあるようだ。「ワークライフバランスのとれた女性教授が増えてほしいです」と願う川瀧さんが入学した頃の研究所には、女性教授は一人しかいなかった。「学生主導でジェンダー平等を推進するキャンパス内の活動が増えてほしい。東大が変われば、日本中の教育機関に影響を及ぼすことができるでしょう」とベルテさんは語る。

権威と保守的なアプローチが現代社会の変わりゆくアイデアに直面する時、ゆっくりと着実な構造の転換を起こすのは若い車輪なのだ。

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The International Women’s Day video by ‘Toward Diversity’ is available here.

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